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東京地方裁判所 昭和43年(行ク)38号 決定 1968年7月06日

申立人 黒田康平 外二二名

被申立人 町田市選挙管理委員会

主文

本件申立てをいずれも却下する。

申立費用は申立人らの負担とする。

理由

一、本件申立

(本位的訴えについての執行停止)

被申立人は、申立人等が選挙人名簿に登録されることができない者であるとして、その投票をさまたげてはならない。

(予備的訴えについての執行停止)

被申立人が昭和四三年七月四日なした申立人らが町田市選挙人名簿に登録される資格がないものとした表示処分ならびに同名簿から抹消すべきものとした決定の執行は、申立人らの提起した右処分ならびに決定の取消を求める訴の判決があるまで停止する。

二、申立の理由

申立の理由は、別紙(一)ないし(五)記載のとおりであり、被申立人の意見は、別紙(六)ないし(八)記載のとおりである。

三、よつて判断するに、およそ行政事件訴訟法二五条所定の執行停止が認められるためには、その前提として係属にかゝる本案訴訟が適法な訴えであることを要するところ、申立人らの本案訴訟における請求の趣旨が本位的には「原告等(本件申立人等)はそれぞれ被告(本件被申立人)の作成する選挙人名簿に登録さるべき選挙人であることを確認する。」にあること、予備的には「被告が、昭和四三年七月四日になした原告らが町田市選挙人名簿に登録される資格がないものとした表示ならびに同名簿から抹消すべき者であるとした決定はこれを取消す。」にあることはいずれも記録に照らし明らかである。そこで、右本位的および予備的訴えの適否につき、以下検討することとする。

四、憲法一五条において保障される選挙権は、公職選挙法所定の手続により具体化され、行使されるところ、今これを概観するに、

(一)、公職選挙法(以下単に法という)によると、選挙は選挙人が選挙当日投票所において投票をすることにより行われるが(法三五条、三九条、四四条)、右投票は選挙権のある有資格者によつて行われねばならないから(法四三条)、右資格を認定すべき資料として選挙人名簿が作成され、原則として右名簿に登録された者のみが投票をする資格を付与されるのである(法四二条一項本文)。

しかし、選挙人名簿に登録されている者は必らずしも選挙権を有するとは限らないから、名簿の登録記載に誤りがあるときには、選挙人名簿に登録された者であつても投票をすることができない(法四二条二項)のである。

(二)、このようにして、本来選挙権ある者ができる限り選挙人名簿に登録されること(登録の脱落がないようにすること)および、右名簿ができる限り誤りのないことを期するため、法は二二条ないし三〇条においてその措置を講じている。すなわち、右各法条所定の選挙人名簿登録の申出、登録すべき者の決定、縦覧、異議の申出、訴訟等の一連の手続を経て、選挙人名簿に登録すべきこととなつた者は、登録月(すなわち毎年三月、六月、九月、一二月の各月)の二〇日(但し確定判決による場合は直ちに)に登録されて(法二六条)、選挙人名簿はこゝで一応確定され、三ケ月毎の登録月に再び同じ一連の手続を経てその都度選挙人名簿は修正されて、選挙権ある者が可能な限り登録されていることとなつているし、他方、選挙人名簿の登録記載に誤りがある場合には職権により抹消および訂正の手続が行われ(法二七条)、前記登録手続の場合と同様、一連の段階的手続を経て確定されることになる(法二七条三項)のであつて、それ以外の方法によつて登録を動かすことはできないのである。

(三)、ところで、選挙人名簿に誤載ある場合(例えば、本件において被申立人が主張する如く、当該市町村の区域内に元来住所を有しなかつた者が誤つて登録されていたような場合)には前記のとおり法二七条一項、二項所定の手続により市町村の選挙管理委員会が、表示および抹消決定(誤載者を選挙人名簿から抹消すべき者とする決定)をすることになるが、抹消決定は確定した選挙人名簿の効力を直ちに消滅せしめる効力を有するものではない。ただ右決定は選挙人名簿の有する選挙権の存在に対する推定力を削減する作用をもつものというべきである。

従つて、投票に際して投票管理者は投票をしようとする選挙人についてその選挙権の有無を実質的に審査すべき権限を有するとはいうものの、独自の調査資料をもたない以上は前記決定ならびに表示の趣旨にそつて、選挙人名簿に登録されている者であつてもその者に対して投票を拒否する(法五〇条二項)こととなろう。しかし、投票管理者の右拒否に対しては、右拒否の理由如何を問わず、独立して不服申立の方法は認められておらず、終局的には、選挙施行後において、当選訴訟ないし選挙訴訟の対象として審査を受けることとなつている。

(四)、以上簡単に概観したように、法は、選挙人名簿に関する争いについては自己完結的な手続においてその確定方法を講じており、選挙の各段階的手続の安定をはかつているのである。

五、そこで、申立人らの提起した本案訴訟についてみるに、右本案の申立は以下に検討するように不適法と認めざるを得ない。

(一)  先ず本位的訴えについて検討するに、その訴旨は必ずしも明確ではないが、要するに被申立人が、確定した申立人等にかかる選挙人名簿の記載を抹消しようとしているので、これを予防するため、申立人等が選挙人名簿に登録される資格のあることの確認を求めるというに帰する。

ところで、選挙人名簿に登録される資格を確定するといつても、それは申立人等が登録月である昭和四三年六月一日までに選挙権を有し、かつ、引続き三箇月以上東京都町田市の区域内に住所を有するものであること(法二二条一項)を確定することにほかならないのであつて、このようなことがらは、前に述べたように、選挙人名簿登録の要件であるばかりでなく、投票管理者が行なう投票の拒否決定(法五〇条二項)、開票管理者が行なう投票を受理するかどうかの決定(法六六条一項)などのように、選挙の執行段階における選挙執行機関の個々の行為の要件をなしており、結局は当選無効または、選挙無効の訴訟において審査せらるべきものでもあるのである。

そして、選挙の結果について利害関係を有する者は、選挙または当選の効力を争うについては公職選挙法所定の手続によるべきものであることは同法の争訟規定の解釈上当然であるから、同法の定める争訟において審査の対象となるべき事項と同一の事項を違法原因として、選挙の執行機関の個々の行為の違法を攻撃する抗告訴訟は、同法に牴触し、許されないものというべきである。

(二)  次に予備的訴えについて考えるに、疎明によれば、被申立人は昭和四三年七月四日申立人等が町田市の選挙人名簿に登録される資格を有しない旨の表示をなし、かつ同名簿から抹消すべき者として決定したことが認められる。しかし、もともと、抹消決定は前記のように法所定の名簿修正訴訟によつてのみ取消しうべきものであり、また、本件予備的訴えの目的物は、実質上、右名簿修正訴訟の目的物と同一と解しうるのであるところ、本訴は名簿修正訴訟の要件(法二七条三項で準用される法二四条、二五条)を具えていないことが明らかである。なおさらに本訴が、かりにそれ以外の、法に規定せられていない趣旨の訴えであるとすれば、本位的訴えについて述べたと同様、かかる訴えは法に牴触し許されないものというべきである。

六、申立人等は、本件のような訴えが許されないものであるとすると、憲法に保障された裁判を受ける権利ないし選挙権の行使を制限されることとなり、また法定手続の保障の規定に違背し不当であると抗争する。

しかし、申立人等の提起している本件訴えは、既に判断したように結局、選挙人名簿の記載に関する争訟であるといわざるをえないのであつて、それは、実質において、選挙人たる資格で提起する民衆訴訟(行訴法五条)に属するものであるから、本件のような場合に適切な救済手続がないからといつて、それが原告の主張する憲法の諸規定に違反するものということはできない。

以上の次第であつて、申立人等の提起に係る本案の訴えは、結局いずれも不適法のものと認められるから、本件申立もまたいずれも不適法として却下を免れない。

よつて、申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 緒方節郎 小木曾競 山下薫)

別紙(一)

申立の理由

一、申立人等は申立外学校法人和光学園が設置する和光大学の学生である。

二、申立人等は修学のため右和光大学(東京都町田市金井町二一六〇番地所在)の同一キヤンパス内に設置された学生寮に入寮し、ここを生活の本拠と定め、町田市の住民となつた。

三、被申立人は申立人等が町田市に住所を有するものと確認し(公職選挙法施行令一八条参照)所定の手続きを経て選挙人名簿に登録した。

四、しかるに、被申立人は右和光大学のキヤンパスが東京都町田市と神奈川県川崎市とにまたがつており、申立人等の宿泊する学生寮の建物がたまたま川崎市の区域上に存在することを発見したと称して、申立人等の住所は東京都町田市にはない。従つて申立人等は選挙人名簿に登録される資格を有しないこととなるとして右選挙人名簿にその旨の表示をなし、抹消すべき者として決定しようとしている。

五、しかるに、左記のとおり、申立人等の生活の本拠は、東京都町田市金井町二一六〇番地にあるから右表示は、正当でない。すなわち

(1) 申立外和光大学は、東京都町田市と川崎市とにまたがつて位置するが、その住所は町田市金井町二一六〇番地にあり、(文部大臣の設立認可も右住所でなされている)大学の各建物の登記は東京法務局町田出張所になされている。

(2) 申立人等の宿泊する学生寮は、大学の同一キヤンパス内の敷地に、大学の管理棟、教室棟、研究室棟、運動場等と有機的一体をなすものとして建設され、申立人等は食事は大学食堂を利用し、郵便物、電報、電話等は町田市所在の大学事務室を使用している。すなわち申立人等の全生活は単一の社会的存在としての和光大学構内で展開されている。

六、被申立人は申立人等が選挙人名簿に登録さるべき正当な選挙人であるにもかかわらず、住所に関する見解を誤り、選挙人名簿に登録されることができない者であるとしてその旨の表示をなし、七月七日に行なわれる参議院議員選挙についてその投票をさせないようにしている。

さすれば、申立人等は回復することができない損害をこうむることとなり、緊急の必要があるので、本申立に及んだ次第である。

別紙(二)

一、申立人等が本案をもつて主張するのは、行政事件訴訟法第三条第四項にいわゆる「無効等確認の訴え」の類型に属する抗告訴訟である。

すなわち、申立人等は、被申立人等が一たんは申立人等の住所が町田市にある、すなわち選挙人として町田市の選挙人名簿に登録される資格を有するものと確認して(公選法施行令一八条参照)選挙人名簿に登録されていた(公選法二六条一項)ところ、被申立人は昭和四三年六月二二日に至り、申立人等の住所は川崎市にあり、町田市の選挙人名簿に登録される資格を有しないことを知つたとして、右登録を抹消せんとしているのであるが、ただ抹消については、誤載者としての表示、抹消すべきものとしての決定、縦覧等の手続を履践しなければならないところ、(公選法二七条一項、二項)被申立人は未だその手続をしないまま、昭和四三年七月七日の参議院議員選挙日には、申立人等は誤載者として投票させない(公選法四二条二項参照)旨公言しているので、被申立人がなした選挙人名簿への登録は有効である、との確認を求めるものである。

しかして被申立人は右選挙人名簿への登録が有効であるにかかわらず、これを無効であると前提して、これに続く処分として投票拒否の意向を示しているので、これにより申立人等は損害を受けるおそれがあるので当然原告適格を有する。

二、無効等の確認の訴えについては、行政事件訴訟法三八条三項によつて執行停止の規定が準用されている。

本件においては、被申立人は、選挙人名簿への登録が有効であるにかかわらず、無効であると前提し、手続の続行として申立人等の投票行為を妨げんとする態度を示している。

しかして右手続の続行としての投票阻止行為によつて、申立人等は七月七日の参議院議員選挙の投票ができず、申立人等には回復の困難な損害を生じるし、これを停止させる緊急の必要が存するのであるから、右投票阻止行為の停止を求めるのである。

すなわち申立人等は右被申立人のなさんとする手続の続行の停止を求めんとするのであつて、申立人等が正当な選挙権者であるとの地位自体を直接求めるものではない。

別紙(三)

第一、申立の原因第一項に誤りがあつたので左のとおり訂正する。

申立人等は申立外学校法人和光学園が設置する和光大学の学生である。ただし申立人繁下重之助同キミは学生ではなく、学生寮の管理人である。

第二、(一) 申立人等の本案訴訟は適法である。

被申立人は本件各登録は、登録としては有効であつて、効力の無いものではなく、ただ申立人らが登録される資格がないのに登録されているにすぎないのであろうから登録行為そのものの有効無効を争うことは意味がないと主張する。

よつて反論するに登録は、単に法定の手続によつて抹消されるまでは登録としての効力を有するというだけでなく、登録された当該選挙人が登録される資格を有するとの確認ないし認証行為を含んでいるのである。

選挙管理委員会は選挙人名簿に登録すべきものとして決定する場合には、その者が登録される資格を有しているかどうかを調査し、その資格を有することについて確認が得られたときに、その者を登録すべき者として決定するのである。(令一八I)

このようにきわめて厳格な確認手続を経てなされる登録行為は、当然その効果として、登録される資格についての確認行為が含まれているのである。この確認乃至認証行為を被申立人自身が覆えす態度を示す以上、右登録の有効性、すなわち登録される資格を認めた行為の有効性を主張することは無意義でなく、本案は適法である。

(二) 表示はなるほど直接法律上の効果を生ずるものではないが、誤載として表示する以上、当然抹消すべき者として決定され、抹消されるに至ることはみやすい道理であつて、右のような申立人らの利益を侵害するに足る事実的行為については、これを争う利益は存在する。

又申立人らは法に規定された名簿訴訟をもつて争えば、権利の保護、救済としては十分であり、右手続で争えば足るかといえば右をもつてしては申立人らは七月七日に施行される参議院議員の選挙に間に合わないことは明白であるから右は理由がない。法が了定している名簿訴訟は、一般的な名簿作成に関連して規定されたものであつて本件のように具体的な選挙の施行に関連して選挙権行使が問題になる場合を予想して規定されたものではない。

従つて本件の場合のように法の予定する民衆訴訟としての名簿訴訟によつては権利の保護救済ができない場合には名簿登録の有効性を抗告訴訟として主張しうるのである。

もし本件の場合も法にいわゆる名簿訴訟のみが許されると解されるならば、法律上の争訟について憲法三二条の裁判をうける権利を奪うことになり、憲法違反であり、右規定乃至は解釈は憲法三一条の適法手続に違反し無効といわなければならない。

(三) 申立人らが執行停止を求めるのは、手続の続行としての投票阻止行為であつて、行政事件訴訟法二五条が手続の続行についても、停止がありうることを認めている以上、およそ行政機関の行為が存在しないうちにその差止めが一般的に許されないとは断ぜられず、手続の続行として極めて高い蓋然性をもつて予想される続行行為については、停止が許されると解する。

(四) 執行停止が公職選挙法上排除されているのは、同法が各種の手続の集積が段階的に発展するという選挙の特質をとらえ、右特質に応える法技術としてとられたものであつて、右技術性は右特質に応える限りで、妥当性を有するのであり、右技術性の許容される限界をこえて、その正当性を主張しえないのである、選挙権は民主国家の基本を支える国民の基本権であつて、法の技術性、行為の必要性を理由として行政機関の一方的認定によつて否定しさられてよいものではない。

本件の場合、被申立人は名簿登録の際の調査で問題のあることを十分知りながら、申立人らの住所は町田市にあると確認していたのであるが、選挙権を行使すべき事態になり、名簿訴訟をもつてしては権利の救済ができなくなつた段階で突如として選挙権を奪おうとしているのであり、かかる場合までを予定して、法は執行停止の規定を排除したとはいえないのである。

選挙権の有無が争いになつた際、選挙権を生かす方向で解決することこそ、公選法解釈の基本的態度でなくてはならないことは参政権の日本国憲法の位置づけからもけだし当然であろう。

被申立人は無資格者の投票があることを恐れているが、行政機関としては有資格者の投票阻止の慮れこそ恐れねばならないであろう。

別紙(四)

一、選挙人名簿への登録は、選挙人資格を有することを公証する行為である。登録は単に登録者の登録資格を決断する一資料にすぎなく、投票管理者は、投票立会人の意見を聴くとはいえ、自由に他の資料を用いて選挙資格を否定できるというのでは、厳格な確認手続を経て名簿登録がなされる趣旨が没却されてしまうであろう。

登録には選挙資格確認という判断があり、右判断が縦覧を通じて広く国民に公示されること、又選挙人名簿に登録されていない者は投票することができない(法四二条)とされていることは、登録が選挙権存在の公の認証行為を意味し、この有効、無効を争う利益が存するのである。

二、表示は本来抹消の前段階としての意味を有し、選挙執行における投票手続上の判断資料としての意味を本来有するものではない。従つてこの点に関する違法は、選挙争訟とは独立した名簿争訟として取りあげるべきで、これこそ現行法の体系にマツチする。

三、暫定的処置自体は、選挙の性質上不都合ではない。これは、選挙途上で、紛争がある以上避けられないことである。

問題は選挙権侵害の虞れを無視し、行政の必要を優先させる暫定的処置か、選挙権の尊重に立つた暫定的処置か、ということである。

被申立人は、投票できるかどうかわからないのに暫定的処置として投票させることの不当を鳴らすが、右は権力主義的選挙観であつて不当である。およそ投票できる可能性がある以上、主権者たる国民の参政権を尊重して暫定的処置として投票させることこそ、民主国家の選挙といえるのであり、暫定的処置として投票させないことこそ危惧せねばならない。主権者たる申立人らの正当な選挙権の行使を阻げて、確定的に国民の代表者が決定されることこそ、選挙管理委員会はおそれねばならない。

被申立人のいうように、暫定的処置として申立人の選挙権を排除し、今後六年間の国政を信託する参議院議員が決定された後、本訴で申立人らの選挙権が認められたなら、一体被申立人は申立人らにどのような回復をはかるつもりであろうか。

別紙(五)

申立人らは、さきに、申立人らが選挙人名簿に登録されることができない者であるとして、その投票を妨げてはならない旨の執行停止の申立をなしたが、そのご相手方は、昭和四三年七月四日に至り、申立人らにつき公選法二七条一項の表示ならびに同条一二項の決定をなした。

よつて、申立人らは、右事実にもとづき前記のとおり予備的申立をなしたが、その理由は次のとおりである。

第一項ないし第二項ならびに第五項はさきに提出した申立書(別紙(一))と同一であるからここに引用し、第四項および第六項を次のとおり変更する。

第四項 しかるに、被申立人は、昭和四三年七月四日、申立人等の住所は東京都町田市にないから、同人らは、町田市選挙人名簿に登録される資格を有しないとして右選挙人名簿にその旨の表示をなしかつ抹消すべきものとして決定した。

第六項 被申立人は、申立人らが選挙人名簿に登録されるべき正当な選挙人であるにもかかわらず住所に関する見解を誤り、選挙人名簿に登録されることができない者であるとしてその旨の表示をなしかつ抹消すべき旨と決定し七月七日に行なわれる参議院議員選挙について、その投票をさせないようにしている。

よつて、このまま放置すれば申立人らは回復することができない損害をこうむることとなり、緊急の必要があるので本申立に及ぶ。 以上

別紙(六)

申立の趣旨について

本件申立を却下する

との裁判を求める。

申立の理由についての認否

一、第一項は不知(繁下重之助、同キミは学生ではない)

二、第二項

和光大学の学生寮に入寮し、同寮を生活の本拠と定めたこと、和光学園なる学校法人が町田市所在であることは認める。

その余は否認する。

三、第三項

被申立人が町田市の選挙人名簿に登録したことは認める。

その余は否認。

しかし、右登録は誤認に基くものであつた。

四、第四項

和光大学の建物が、町田市および川崎市並びに両市の境界上に存在すること、申立人らの宿泊する学生寮が川崎市の区域内に存在すること並びに申立人らは町田市の選挙人名簿に登録される資格を有しないこととなるので、右選挙人名簿に誤載の表示をし、抹消すべき者としての決定を行おうとしていることは認める。

被申立人は、昭和四三年七月四日右表示を行う予定である。

五、第五項

学校法人和光学園の所在地が町田市金井町二一六〇番地であることは認める。

その余は否認する。

六、第六項

争う。

被申立人の主張

第一 本案について理由がないと認められる。

一、申立人らの生活の本拠が学生寮であることは申立人らの認めるところである。

最高裁昭和二九年一〇月二〇日判決によれば、住所とは生活の本拠を指すものと解されている。よつて申立人らの住所は学生寮である。学生寮は川崎市内にあるので、住所は川崎市にあることが明らかである。

二1、和光大学の建物は、

事務管理棟一棟、食堂一棟、体育館一棟が町田市の区域内に、学生寮(本件係争建物)一棟、職員寮一棟が川崎市の区域内に、研究室一棟(川崎市分が多い)教室一棟(殆んどが川崎市)が町田市および川崎市の境界にまたがつて、

それぞれ存在しているものである。

2、学生寮は、建築確認申請が川崎市役所に提出され、横浜地方法務局溝口出張所に登記が行われている。昭和四三年度から川崎市において固定資産税が課せられている。川崎市に所在することは明らかである。

3、申立人らは、いづれも右川崎市所在の学生寮に入寮し、ここに居住しているのであるから、川崎市に住所を有するものである。よつて、町田市の選挙人名簿に登録される資格を有するものではない。

被申立人が町田市の選挙人名簿に登録したのは誤りであることが明らかであるから、公職選挙法二七条一項の規定により、選挙人名簿に登録される資格を有しない旨すなわち誤載の表示をすべきものであり、被申立人の行為には何らの違法はない。

4、申立人らは、和光大学の各建物、運動場が有機的一体をなすものとして建設され、全生活が単一の社会的存在としての和光大学の構内で展開されている旨述べている。

しかし、管理棟、教室、研究室、運動場が大学の施設として有機的一体をなすとしても、学生寮がこれらの施設と有機的一体をなすものではない。大学の教育の施設と寮との関係は必然的関連はない。たまたま近い距離にあるからといつて、教育関係の施設と寮とが有機的一体をなすものとは認められない。和光大学には敷地全体を囲む塀はない。

会社の寮や社宅が会社の敷地内に在る場合に、会社と寮や社宅が有機的一体をなすものとは認められないことと同様である。

郵便物、電報がかりに大学の管理事務室に配達されたとしてもそこが便宜上配達場所とされていて、事務の人が受領するからそこに配達されるまでのことであつて、学生寮に配達するよう要求すれば、当然寮まで配達される。住所認定の資料になるものではない。

電話は川崎の管轄になつているが、大学の事務室にしかないからそれを利用するにすぎない。

食堂は、たとい大学の食堂を利用しても、それは一般の外食者が食堂を利用するのと同一で、常に食事をする場所が生活の本拠すなわち住所となるものではない。学生寮にも食堂があつて利用されている。

一般の人が、職場に通勤し職場内もしくは職場所在の市町村の食堂で三度の食事をしても、職場のある市町村に生活の本拠があり、すなわちそこがその人の住所であると認められないのは自明の理であり学生の場合も右と同様である。一日中学校(教室その他の教育施設)にいて、学校で三度の食事をしたからといつて、一般の勤め人の場合と区別して学校の所在地に住所があるものとは認められない。

却つて、教室、研究室は川崎市所在部分が圧倒的に多く、また寮が近いのでしばしば寮に帰るのが通常であるから、一日のうち殆んどは川崎市内にいると認められる。

またかりに申立人らの食生活が単一の社会的存在としての大学構内で展開されているものとしても、その大学の各建物が両市の区域にわかれて存在する場合には、そのうちのどちらの市に生活の本拠があるかを定めなければならない。両方の市にあるとすることはできない。

日常寝起きするところをもつて生活の本拠と認めるべきであるそのうえ前記のように本件では学生は二四時間中殆んど川崎市で生活しているのである。学生でない申立人は学生寮の外に生活の本拠の生ずる余地はない。勤め先や学校に生活の本拠があるとは到底解せられないのである。

三、以上の理由により、申立人らの住所が川崎市の区域内にあることは明らかである。よつて、申立人らの本件申立は本案について理由がないと認められるので却下さるべきである。

第二 申立人らの本案訴訟は不適法であり、したがつてまた、本件執行停止の申立は不適法である。

一、本件各登録は、登録としては有効であつて効力の無いものではない。ただ申立人らが登録される資格がないのに登録されているということにすぎない。

申立人らが投票拒否される理由は公選法四二条二項であつて、四二条一項にいう登録されていない者ないしは登録されていないことに帰する者としてではない。

地方自治法七四条四項の直接請求の規定には「選挙人名簿に登録されている者」という規定があるが、この中には、登録される資格がないのに登録されている者をも含むのである。(第七次改訂版長野士郎著地方自治法逐条解説一六七頁参照)

登録という行為そのものの有効無効を争うことは意味がない。登録行為としては抹消されるまで有効に存在するのである。登録される資格の有無が問題になるのであるが、これを争うことは行政機関の行為の存否や効力の有無を争うものでないから、現行法上は許されないものというべきである。

二、公職選挙法二七条一項の規定による表示は、法律上の効果を生ずるものではない。これを争う利益はない。

選挙人名簿に誤載その他の表示をすることは、名簿から抹消することではない。抹消は、同条三項の規定により、同法二三条から二六条一項までの規定によつて登録月の二〇日に抹消が行なわれるのである。

また誤載なる表示は、選挙権を喪失させる効果を生ずるものでもない。選挙権の有無は表示とは別個に判断されるものである。

また右表示により、選挙権を行使させない意思表示が行われたり選挙権を行使し得ないという法律上の効果を生ずるものでもない。

投票を拒否するか否かは投票管理者が投票立会人の意見をきいて、決定するものである(公選法五〇条二項)、投票管理者は、選挙人名簿に登録された者であつても選挙人名簿に登録されることができない者であるときは、投票を拒否しなければならないものである(公選法四二条二項)。

右の投票拒否は、誤載の表示の有無に関係がない。ただ選挙管理委員会により予め誤載の表示が行なわれているときは、投票管理者は事実上その判断に従うこととなるがこれは表示の直接の法律上の効果ないしは表示に続行する手続というものではない。投票管理者の判断により投票管理者の処置として行われるものにすぎない。

右のように表示それ自体は、独立の法律上の効果を有するものではなく、これを前提として後の手続が行われるものでもない。

公職選挙法が二三条、二四条、二五条、二七条に脱漏、誤載、抹消について、争訟の手続を特に規定し、一般の行政事件とは異つて、民衆訴訟、二審判、行政事件訴訟法の執行停止の規定を準用しない旨等、特別の規定を設けているのに、二七条の表示については何ら争訟の手続を規定していないのは、右の理由により表示が独立の法律上の効果を生ずる行為ではないからに外ならない。なお、表示なる行為は、事実行為であり、選挙管理委員会の議決は必要でないものとの行政解釈が行われている(昭和四一年九月二〇日自治管第一一九号各都道府県選挙管理委員長宛自治省管理課長通知のうち自治省編選挙関係実例判例集三〇〇頁)。

よつて、本件において、かりに、被申立人により表示が行われたとしても(申立人らの申立の時にはいまだ表示は行われていない)、右について、取消もしくは無効確認の請求をすることは訴の利益がないものとして許されない。

また申立人らが、予め、被申立人の表示をしないように本案の請求をするものであれば、そのような請求は現行法においては許されない。

公選法二七条二項によれば誤載の表示がされたときは選管は直ちに抹消すべき者として決定しなければならないと規定されている。

右の決定は、内部的行為であつて直ちに抹消が行われるものではない。抹消は同条三項により二三条から二六条一項までが準用されるので、抹消は登録月の二〇日(本件にあつては昭和四三年九月二〇日)に行われるものである。

この際には縦覧、異議申立という救済手続がふまれるものである。抹消については特別な争訟制度が二三条により設けられているのでこれにより争えば足りる。これ以外に一般の行政訴訟を認めたり、抹消すべき者としての決定自体を争わせる必要はない。

公選法所定の争訟以外に一般の行政訴訟を認めるべきでないとの点については田中真次著選挙関係争訟の研究一三頁、一四頁を参照されたい。名簿訴訟についても同旨に解すべきである。

さらに、表示や、抹消すべき者として決定以前に選管の登録資格を有しない旨の決定ないしは判断が先行するものとしてこれを行政機関の行為として捉えて争わせる必要もない。表示や抹消決定以上に法律上の効果はなく、内部的行為の性質が強いものであるから独立の争訟の対象とすることは適当ではない。

三、申立人らは、結局被申立人もしくは投票管理者により投票が拒否されることのあるを予測し、それを防止しようとするもののようであるが、行政機関の行為の存在しないうちに、その差止を求めることは現行法上許されないものというべきである。

もしも投票の拒否に関して争おうとするのであればそれは結局具体的な選挙の執行に関する違法について争おうとすることに帰着する。

申立人らに対する投票拒否が違法であるとしても、それは、選挙執行後に、選挙の効力または当選の効力に関する争訟において争うべきものである。しかして選挙の執行中に、しかも投票拒否の行われる以前に、投票拒否に関連して、被申立人の登録、表示その他の行為の効力や、選挙人名簿の登録資格の存否について争うことは現行公職選挙法の制度上許されないものである。

右の点については、立候補届不受理処分の取消を求める訴を個々の行為の違法を主張して取消を求めることは、不適法とした最高裁判所昭和三八年九月二六日判決(民集一七巻八号一〇六〇頁)があり、また、市の境界が明確でないことを理由に大阪府大東市選管が名簿登録されている一五三名について市の区域外の居住者として誤載の表示を行い投票させなかつた事案に関して選挙争訟として判断をした大阪高等裁判所昭和三二年一一月六日判決(行政裁判集八巻一一号一九六三頁)がある。(この事案は名簿の表示を捉えているが、投票管理者の投票拒否の点を捉えるべきものと考える。)

また右の二判決に関しては、田中真次著選挙関係争訟の研究一四頁、一五頁、一六頁、五八頁を参照されたい。

すなわち、選挙人名簿の登録資格の有無についての判断、ひいて投票を行わせるかどうかは、選挙執行上の各個の手続に該当するものであつて、これについて独立の争訟は許されず、選挙執行後に公選法所定の手続により選挙争訟として争うべきものであり、それをもつて、権利の保護、救済としては充分である。

四、付言すれば公選法は名簿訴訟と選挙の執行とは関係なく、名簿に関する違法と選挙争訟とは区分して取扱うように規定されている。名簿の脱漏(登録拒否を含む)、誤載、抹消は名簿訴訟としてのみ争うことができ、選挙の執行とは全く無関係に訴訟が進められ、かつ、選挙もしくは当選の効力についてこれらの違法を理由に争うことは許されていない。

いまかりに、名簿訴訟に関連して、投票の拒否の問題に手をつけることは、執行停止の規定の準用を排除して、名簿争訟と選挙の執行を区分し、選挙の執行が名簿訴訟により影響を受けないとしている現行の基本体系に反することとなる。

選挙人名簿と選挙の関係、名簿訴訟と選挙の効力の関係については、最高裁昭和四二年九月二八日判決、民集二一巻七号一九九八頁、並びに同事件に関する法曹時報の矢野調査官の解説を参照されたい。

五、その他の理由

1、選挙は、各種の手続の集積により多数の候補者、選挙人の関与により段階的に集合的に積み重ねられて結果に到達するものであるから、そのうちの一段階を捉えて、その効力を争い、それが選挙の結果に影響するようなことは選挙の性質上好ましくない。この見地から前記の最高裁の判決が行われ、また、公選法が名簿争訟についても選挙争訟についても執行停止の規定を排除している所以である。

いま仮に名簿登録の資格の有無の最終判断(かりにかかる独立の訴訟が許されるものとして)をしないで暫定的に投票ができるような措置を講ずるとすれば、無資格者に投票させる危険を内蔵した選挙を、裁判所の手続により執行する結果を生ずるのである。このような不確定の要因のある選挙を行うことは、選挙の趣旨にかんがみ適当ではない。そのうえ、後日、右投票者は無資格者であるという理由の選挙争訟が高等裁判所に提起されれば、これと名簿に関する地方裁判所の訴訟とが別個に進行し、相反する内容の判決が行われることもありうるのである。このようなそごは選挙関係事件のように対世的効果を有し、合一的確定を要求されるものにあつては避けなければならないことである。

そのうえ選挙後に選挙または当選の効力に関する争訟が提起されないと選挙の結果は確定してしまう。後日、選挙人名簿に関する判決において誤載と判断されても、この無資格者の行つた投票に関して選挙の結果を是正する方途はない。事後において選挙について当然無効のないことについては前掲田中著研究の一六頁、一七頁、一八頁参照。

2、公選法の定める名簿の脱漏、誤載、抹消についての争訟については執行停止の規定が準用を排除されている。(公選法二五条四項、二一九条、二七条三項)かりに公選法所定外の名簿に関する訴訟が許されるものとしても、これに執行停止の規定を適用することは、右公選法の制度と権こうを失することで不合理であるから、公選法の趣旨にかんがみ許されないと解すべきである。

3、公選法の規定の趣旨にかんがみ、公選法所定以外の名簿訴訟は認められないとするのが合理的である。

4、申立人らの求めている投票を拒否してはならないという執行停止は認められない。

前記のように選管の登録資格についての判断、もしくは決定、表示行為、抹消すべき者としての決定という各行為の法律上の効果もしくは、これらを前提とする続行行為として投票管理者の投票拒否決定が行われるものではないからである。投票管理者は公選法四二条一項、二項、四三条の規定に従い、五〇条の手続により投票の拒否を決定するものにすぎない。

別紙(七)

一、事実関係について

1、和光大学の事務管理棟が町田市金井町二一六〇番地にあり、このため大学の所在地を同所として設立認可が行われていることは認める。

2、学生寮については、川崎市役所から固定資産税に関して所要の申告をするよう督促されている。

学生寮の隣りにある職員寮については川崎市において昭和四三年度から固定資産税が賦課されている。

3、電話は川崎市の登戸局である。

4、食堂は、申立人らの疎明書類である昭和四三年度学生寮案内書によれば、朝、昼食は大学食堂、夕食は寮の食堂でする旨記載されている。

5、法人の住所は不動産登記簿によれば世田谷区楼二丁目一八―一八である。

6、川崎市と町田市の境界については昭和四〇年に学校法人から境界査定申請が提出され、両市および東京都神奈川県職員および関係者立会のうえ境界が確認されている。

7、学生寮(寄宿舎)は、昭和四二年一一月一八日、川崎市岡上字杉山一五四九番の一、同所一五四八番所在として横浜地方法務局溝口出張所受付で登記が行われている。

8、職員寮の居住者は町田市に住民登録をしている者も、川崎市に登録している者もある。

学生寮の居住者は、学校の指導で、町田市に住民登録をしたもののようである。

学生寮に居住する学生でない管理者繁下夫妻およびその子も町田市に住民登録をしている。

9、町田市に住民登録をし、名簿に登録されている者で、訴訟を提起していない者が八名いる。(年令から判断して職員のようである。)

二、法律上の主張について

1、名簿の表示は委員会が行うこととされているが、委員会は表示を行う旨の決定を行わない。選管職員が事実を確認したときは、随時表示(名簿カードへの記入)を行うものである。

事後において委員会に氏名件数の報告をすることはある。

2、名簿の表示は名簿の効力の問題ではなく、選挙執行における投票手続上の判断資料として意味を有するのであるから、選挙執行上の問題である。したがつてこの点に関する違法は選挙の規定違反として選挙争訟において争うべきものである。

公選法四二条二項に該当する者は投票ができないが、これを投票管理者が投票当日調査することは事実上不可能であるから、平素から選管において、調査し、メモしておいて投票管理者の判断の便に供するものである。

表示は投票手続上の問題として捉えるべきである。これにより現行法の体系にマツチする。

3、暫定的処置は選挙の性質上不都合である。

投票できるかどうかわからないものに暫定的処置として投票させることは、この者の意思表明によつて、当落が決定されることとなる。

しかも当選人の決定は暫定的ではなく確定的に生じてしまうのである。

選挙のように多数人の関与により集合的に行われる手続にあつては、その途中に暫定的処置をさしはさむべきではない。しかも、本訴の結果、登録無資格であると確定しても選挙の結果(選挙(当選)は終了すれば直ちに効果を生じ、争訟により無効にならない限りくつがえられない)について、無資格者の投票を排除する方法がない(混同して開票されるので何人に投票されたか不明で、無資格者の投票を排除することはできない。)。

本件の本訴とは別個に、当選無効争訟が提起されなければ、右無資格者の投票に関する違法を是正する方法がないのである。

4、表示の効力を停止する措置がとられると、今回の参院選に限らず、この執行停止の取消があるまで、今後の選挙の度に、暫定的投票が繰り返される。

四三年九月以降の名簿登録月において、抹消手続を行うこともできないので、表示の効力の停止されたままの状態で名簿を使用し選挙を続けなければならない。無資格かどうかわからない者の投票を含む選挙が繰り返されることとなるので、不都合である。

表示の効力を停止しないで、表示、抹消を認めるとすれば、九月の登録月には、選挙人は抹消に異議を申出て争うか、川崎市に登録申出をするか選択すればよい。

抹消を争つている間は投票はできないが、これは一旦町田市に登録されたことに伴う特別な不利益ではない。およそ登録を拒絶された者、抹消されるべき者一般の蒙る不利益である。

はじめ町田市に登録を申出た場合に町田市で気がついたとすれば登録を拒絶された筈であり、これを争えばその間は投票できないのであるから、一旦登録されて、後に抹消され、これを争う場合も右に比し格別の不利益を受けることにはならない。

5、今回の選挙について不利益があるとしても、それは選挙後の争訟で救済されるので、回復困難な損害があるものとはいえない。

多数人の関与する選挙の性質上この救済措置をもつて妥当とすべきものである。

別紙(八)

一、町田市選管は昭和四三年七月四日次の措置をとつた。

(1) 申立人らの選挙人名簿(カード)の表示、表示の消除の欄のうち年月日の欄に「昭和四三年七月四日」と理由の欄に「誤載、当所に不居住のため」と記入し、抹消すべき者の決定の欄に「昭和四三年七月四日」と記入し、もつて、公職選挙法二七条一項の規定による表示を行つた。

(2) 同市役所内において委員会を開催し、申立人らについて、選挙人名簿から抹消すべき者として決定した。

(3) なお、以上の措置は、申立人らのほか、金井町二一六〇番地を住所として登録されている和光大学関係の八名の者についても行われた。

二、誤載者が、「選挙人名簿に登録されている者」として扱われる例は公選法三八条一項、六二条一項、七六条一項による六二条の準用の各立会人の選任資格の場合および八六条二項がある。昭和二年八月一五日地発乙第一九七号のうち地方局長通牒はこれを肯定している。(自治省選挙局編選挙関係実例判例集(1)三八六頁下段)

表示の問題は、名簿そのものの問題としてではなく、投票との関係においてのみ意味があるので選挙執行上の問題。選挙の管理執行に関する規定違反の問題として捉えるべきで、選挙、当選争訟として処理すべきものである。

三、郵便物の宛名が金井町二一六〇番地和光大学学生寮となつておりそれで配達されていることは住所の資料にはならない。間違つて表示されているが、大学に配達され、その事務室は同町にあるので郵便が届くのは当り前のことである。二一六〇番地は大学の表示としての意味にすぎないのである。

例えば生活の本拠らしい居所が二ケ所あるが、郵便物はそのうちのAの居所宛にのみしか届けられないような場合に生活の本拠はBの居所でなくAであるという資料に使われる場合とは趣を異にする。一ケ所しかない居所の表示が間違つていたが郵便が届くということでしかない。

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